槍と槍がぶつかり合う音。
聞くだけで逃げたくなる程嫌いだったその音が、最近では耳に入るとつい出所を探してしまう。
そうやって、今も皆が鍛練しているのをただこっそり眺めるているというわけだ。
きっと、鍛練の目的が変わったから。やみくもに人を傷付ける為じゃなく、次へと繋いでいく為に。
1年前はあんなに恐ろしかった背中が今はとても頼もしく見える。
今なら。今だったら、氷月とも少しは話せるかな。


「で、何をぼんやり突っ立ってるんですか君は」
「えっ……あー、いや、そのう」

ワープでもしたのか。背中を見つめていたはずなのにいつの間にか背後を取られていた。
背の高い氷月に見下ろされるとやっぱり萎縮してしまう。
でも、彼は仲間だ。仲間と話すのは普通のことだし、仲間と更に絆を深めたいと思うのもきっと当然だ。

「興味がありますか」
「う、うん。仲良くなりたいな〜なんて、ハハ」
「…………槍と?おかしなことを言う」

いやいやそういう意味じゃ……まあ良いや。
彼は最初から鍛練や槍術の話をしているのであって、まさか私が「君と仲良くなりたいです!」と思ってるなんて微塵も考えちゃいないんだろう。

「今は戦闘に長けてる者に現代武術を会得してもらうのが先決です。君も分かってるとは思いますが」

ほら、氷月はこういう人だ。
容赦はないけどなんだかんだ真面目で、決して怠らない。

「君が槍で戦えるとは到底思えませんが。まあいずれ、その時が来たら考えてあげなくもないですよ」
「それは……ありがとうございます……?」

このままだと将来本当に槍と仲良くさせられてしまう。でも、心なしか氷月の空気が和らいだような気がするし、それも悪くはないかなぁ。



2020.11.30


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